あなたはまだ本当のシロアリを知らない。シロアリを理解する17の知識

あなたはまだ本当のシロアリを知らない。シロアリを理解する17の知識

アリイラスト

「シロアリは害虫」という認識があっても、実際にどのような生態なのか詳しい部分まで理解している方は少ないのではないでしょうか?例えば「シロアリはアリの仲間」というのはよくある誤解ですが、ではシロアリの正体は何なのか、アリとはどう違うのかと問われると、大半の方が説明できないものです。

そこで本稿では、シロアリに関する基本的な知識から専門的な知識、さらには駆除まで、一挙に取り上げてみたいと思います。詳しくシロアリについて知れば、これまでとは違ったシロアリ像が見えてくるかもしれませんよ。

目次

1.そもそもシロアリとはどんな害虫?

「シロアリ」と一口でいっても、その種類はさまざまです。まずはシロアリについて、生物学的にはどのように分類されているかについて見てみましょう。

1-1.シロアリの分類

シロアリは生物学的系統としては昆虫網「ゴキブリ目」のなかに位置付けられることが多く、原始的な種であるムカシシロアリから家屋に被害を与えるヤマトシロアリやイエシロアリなど、全世界で3,000種以上の種が確認されています。

全てのシロアリが「複数の世代が一緒に住む」「共同で育児をする」「産卵・養育・防衛などの役割分担をする」といった社会性を持ち、種の数も多いことから、かつては独立した種・シロアリ目(または等翅目・とうしもく)として考えられていました。

しかし遺伝子配列などを解析した結果、腐った木を食料とするキゴキブリと共通の祖先種を持ち、その前にはゴキブリと分化したことがわかってきました。そのため現在ではゴキブリに近い種として考えられています。

1-2.シロアリの種類

シロアリに分類される3,000以上の種のうち、3分の2以上は「シロアリ科」に属しています。しかし「ムカシシロアリ科」など祖先種の分化時期によって7科にわけられることが多く、これらもシロアリの仲間です。

例えば、日本で家屋のシロアリ被害をもたらす代表的な種「ヤマトシロアリ」と「イエシロアリ」は「ミゾガシラシロアリ科」に分類されます。一方家具の被害を中心にもたらす「アメリカカンザイシロアリ」などは「レイビシロアリ科」のシロアリです。このことからも、シロアリの種類は多種多様だということがわかるでしょう。

しかし害虫として数えられるシロアリの種類は決して多くありません。全世界で371種、重大な脅威として考えられている種は104種と、その数は限られます。これは日本でも同様で、日本で確認されているシロアリ22種のうち被害が集中するのはヤマトシロアリとイエシロアリの2種のみです。あとは外来種であるアメリカカンザイシロアリと奄美沖縄を中心にダイコクシロアリの被害が目立つ状況なので、全部で4種のシロアリが「害虫」と言えるでしょう。

1-3.シロアリの区分

3,000種以上が確認されているシロアリは、その生息場所や餌とするものについてもさまざまです。ただ大きな区分として、生息域に土の中を含む「土壌性シロアリ」と、それ以外に生息する「非土壌性シロアリ」の2つにわけることができます。国内ではあまりイメージしにくいかもしれませんが、土壌性シロアリにはアリ塚を作る種類があり、巨大なものはそのほとんどがシロアリによって作られます。

また土壌性シロアリについても「土に関係した部分にのみ生息する」タイプだけでなく、土に関係しながらも木材や樹木に生息域を持つタイプがあります。日本のシロアリ被害の多くを占めるヤマトシロアリやイエシロアリが属するミゾガシラシロアリ科のシロアリはほとんどが土壌性シロアリで、かつ木材も生息域とするタイプです。一方家財などの被害が多いアメリカカンザイシロアリは木材に生息域を持つのです。

アリどんな害虫

2.黒いアリとシロアリの違いは?

シロアリは地面などを歩き回る黒いアリ(クロアリ)と混同されることがあります。共に集団生活をする社会性昆虫で、羽アリとして飛び回るなど共通点も多い両者ですが、この2種には大きな違いがあります。

2-1.アリはハチに近い種

アリは系統分類学的にはハチ目(膜翅目・まくしもく)スズメバチ上科アリ科として分類されます。ミツバチは同じハチ目でもミツバチ上科としてわけられるため、アリは同じハチのイメージが強いミツバチよりもスズメバチに近いといえるのです。

一方で、先述の通りシロアリはゴキブリ目です。同じ集団生活をすることなどからシロアリは黒いアリと同一視されがちですが、系統分類上は同じ昆虫という共通点しかないようです。

2-2.シロアリの巣には常時オスがいる

普通のアリは繁殖期にのみ、オスが生まれてきます。そのためオスの役割は新しく生まれた女王アリと交尾することのみで、一度交尾すればそれ以後は寿命が尽きるまで女王アリは卵を産み続けます。この点はスズメバチやミツバチと似た特徴といえるでしょう。

一方シロアリは常時オスも生まれており、オスも巣の中で働きます。また産卵をおこなうメスの成虫だけでなく、それに対応してオスの成虫も巣の中に住んでいます。ほぼメスのみで構成されるアリの巣と比べると大きな違いといえるでしょう。

2-3.巣にいるシロアリはほとんどが幼虫

アリもシロアリも労働する個体と繁殖を中心に行う個体にわけられますが、働きアリがそのほとんどが生殖機能を失った成虫のメスアリなのに対し、シロアリはオスメス関係なく幼虫として巣で労働を行います。幼虫であることから役割によって姿が大きく変わることもあるのです。

とくに注目するべきは「二次生殖虫」とよばれる形態でしょう。成虫を失った場合や巣自体が大きくなった場合、生殖能力のみを成熟させる個体が現れます。

シロアリの成虫は巣立ち時にのみ使う羽以外にも皮膚が固く茶色に変化し、かつ複眼をもっています。また巣作り当初はアリやスズメバチなどと同様、生殖以外の役割も担うのです。一方二次生殖虫はすでに役割が分化した群の中で生まれるため、その役割は繁殖に限られます。成熟部分も生殖能力のみに限られ巣を離れると生きられないため、幼虫の一形態として考えるのが自然でしょう。そのため二次生殖虫は幼形生殖虫とも呼ばれます。

2-4.羽アリはどうやって見わけるの?

普通のアリもシロアリも、新たな巣を作るために羽を持つ個体が出てきます。成虫となったシロアリは茶色く変化するため見た目の違いが小さくなるようなイメージがありますが、その判別は想像しているよりも容易です。

・時期で見わける方法

日本のシロアリが成虫である羽アリとなって飛び立つのは梅雨の時期までです。一方11月までは黒いアリの羽アリが飛ぶことが多いため、時期によってどちらの羽アリかはある程度区別することができます。

・クビレの有無で見わける方法

アリやスズメバチの特徴として腹部にクビレがあることが挙げられます。これは羽アリも同様で、アリの場合は腹部にクビレがあります。

一方シロアリは幼虫・成虫の羽アリともクビレがありません。

・羽の違いで見わける方法

同じ羽アリでも、アリとシロアリには持っている羽が大きく異なります。

どちらの羽アリも羽自体は4枚で構成されていますが、アリの羽はハチと同様前羽の方が大きくなっています。一方シロアリは前後ともほぼ同じ形になっており、羽を広げて飛行している状態を見れば、シロアリとアリは区別できるといえます。

アリの違い

3.シロアリの生態──アリ以上のカースト社会

シロアリは社会性の獲得が進化の鍵を決定づけたともいわれ、このことが遺伝子的に近いゴキブリと比べ140倍以上の種を分化させる大繁栄につながったともいわれます。社会性は役割分担とも密接に関わっており、幼虫であることからの形態変化とともなって成虫のみで構成されるアリ以上のカースト社会が巣の中で作られています。

3-1.巣を作るとともに繁殖を担う女王・王

シロアリの巣には通常オスメス一対の成虫が住んでいます。1匹ずつしかおらず、最初に巣を作り始めることからメスを女王・オスを王と呼ぶのが一般的です。

女王と王は羽アリとして巣立った後、生き残って巣を作り始めた個体で「創始生殖虫」とも呼ばれます。巣立ちにあたり野外へ進出したことから幼虫にはない複眼が発達しており、羽の跡も確認できます。

なお産卵し続ける女王は王よりも寿命が短いのですが、女王亡き後も後述する二次生殖虫によって個体数は増加していきます。一方王がいなくなったときも二次生殖虫が王を引き継ぐ場合はあるようですが、多くの場合繁殖が止まりその巣は衰退していくといわれています。しかしイエシロアリを中心に巣作りの段階で王が確認されなかった巣もあるようで、シロアリの生態の複雑さを示しているといえるでしょう。

3-2.大部分の仕事を担う職アリ

巣の中でもっとも多くの個体数を占めるのが「労働階級」ともいえる職アリです。餌を集める・巣を維持し拡大する・育児をするなど、巣に必要な大部分の仕事はこの職アリが担います。

この職アリは餌となるセルロースを消化する器官を持っており、巣の維持にとってとくに大事な役割を果たすといえるでしょう。また成虫へと分化する能力を維持している個体・能力を失った個体に分かれるなど職アリのなかでも形態が一部異なっています。

3-3.防衛を担う兵アリ

シロアリは捕食対象にされることが多く、外敵からの防衛に特化した個体も巣の中に存在します。これが兵アリと呼ばれる形態のシロアリで、通常職アリから変化します。

兵アリ自体は現在生息しているシロアリのほとんどの種に存在していますが、種の違いだけでなく巣の中でもあごを発達して物理的な防衛を中心とする個体、分泌液によって攻撃する個体に分かれています。

また分泌液は巣に警告を出す役割も併せ持っており、警告を受けた兵アリが分泌液を出すことで警告をより広く伝えていきます。この兵アリは種の違いが大きく反映されるため、この外形をもとに種を判断することも多いです。

兵アリは防衛に特化しているがため餌を取る能力を持たず、餌は職アリから与えられます。またタンパク質の貯蔵庫としての役割も持っているようで、餌が不足すれば共食いの対象となってしまいます。

3-4.羽アリに成長するための前段階・ニンフ

シロアリの成虫ともいえる羽アリに生長する前段階が「ニンフ」と呼ばれる形態です。

ニンフになると職アリとして活動する一方で翅芽(しが)と呼ばれる部分が生まれ、成長していきます。そのままニンフの形態が続けばやがて羽が生え、羽アリへと変わっていきます。アリなどで見られるさなぎと異なり活動を休止しないこともシロアリの大きな特徴であり、その点ゴキブリに近い種であるといわれる根拠のひとつでもあります。

3-5.巣を拡大・補完する二次生殖虫

巣が大規模になると、女王・王以外にも生殖を担う幼虫が現れます。それが二次生殖虫です。

・補充生殖虫が巣を急激に拡大させる

巣が大規模になると職アリのなかに生殖能力のみを成熟させ、王や女王とともに繁殖を始める個体が現れます。このことで巣の個体はさらに増え始め、職アリが増えれば巣拡大の速度も急激に上がっていきます。

・女王や王がいなくなったとき、置換生殖虫が出現する

ハチの駆除は女王バチを駆除することにその焦点が置かれます。これは巣の繁殖能力を女王バチのみが担っているからで、女王バチを駆除できればその巣からはやがて働きバチもいなくなることが多いとされています。

しかしシロアリは女王や王がいなくなった際、職アリやニンフ、巣立ち前の羽アリなどが二次生殖虫へと変化するのです。そのためシロアリ駆除は徹底した消毒が重要なのです。

シロアリの生態

4.シロアリが活動するサイクル

羽アリが発生する時期が春から夏の時期であることもあり、シロアリは季節限定のものというイメージを持っているかたが多いかもしれません。しかしシロアリは年間を通して活動を続けており、羽アリ発生はその活動の一部でしかありません。

4-1.シロアリの冬

シロアリは熱帯にその多くが分布するため寒さは苦手な部分があるものの、寒帯までに広く分類する種のため冬眠することはありません。しかし気温が低くなると活動を停止する性質を持っており、巣は残るものの拡大は限定的といえるでしょう。

一方で現代の住宅は高断熱化が進んでおり、床下なども温度が下がりにくくなっています。そのため建物によってはシロアリの活動が抑えられず、被害が拡大する例もあります。

4-2.シロアリの春

温度が上がってくると同時にシロアリの活動も活発になります。大きな巣になっていれば羽アリが発生することもあり、シロアリ被害に気付きやすい季節です。ただし、羽アリが飛ぶということは深刻なシロアリ被害が起きていることの表れでもあります。すぐにシロアリ駆除を検討し始める必要があるでしょう。

4-3.シロアリの夏

熱帯に多いシロアリは夏に活動が活発になるイメージがあるかもしれませんが、シロアリ科以外のシロアリは体内に共生する微生物によって栄養を補給しています。この微生物は極端な暑さを嫌うため、シロアリは比較的涼しいところに移動するようです。

4-4.シロアリの秋

暑さが落ち着いた頃合いになるとシロアリの活動はふたたび活発になります。そのため春に続きシロアリ被害も増える傾向にあるのですが、冬に向けて気温が低くなるごとにだんだんと活動域を狭めていきます。

5.シロアリには地域差がある?

ではシロアリはどのような地域で被害が大きいのでしょうか。まずは種ごとの分布について確認してみましょう。

5-1.ヤマトシロアリ

日本特有の種ともいえるシロアリで、亜種や関連種を含まれば北海道北部を除く日本全土で確認されています。ほかにも韓国や中国に分布を広げています。

5-2.イエシロアリ

ヤマトシロアリよりも寒さに弱いため、関東・東海と近畿より西に分布が広がっています。また沿岸地域に多く分布しますが、内陸に運ばれることがあればそこで定着します。

以前は中国南部が原産の外来種と考えられていましたが、近年の研究では船など人為的な輸送で侵入したわけではなく、もともと本州に分布していたと考えられています。ただし住宅の気密化により床下温度が下がりにくくなったことから、北へも生息域を広げつつあるようです。

5-3.アメリカカンザイシロアリ

アメリカ西海岸の広い範囲がもともとの分布域で、乾燥に強く寒さにも対応できるため東北より南の全国に発生地域が分散する傾向にあります。

5-4.ダイコクシロアリ

比較的気温が高い奄美・沖縄地方を中心に多く生息しています。

5-5.実際のシロアリ駆除データから

では実際のシロアリ駆除依頼における都道府県別分布も確かめてみましょう。

世帯数に差があるため、10万世帯あたりの件数に直したシロアリ指数・上位下位5都道府県は次の表の通りになります。

表1

表1・10万世帯あたりの件数に直したシロアリ指数・上位下位5都道府県

和歌山県は多雨地域紀伊半島の一部を占める本州最南端の県であり、ほか上位4県も九州に集中していることから、シロアリ被害は高温かつ雨が多い地域に多いことがわかります。一方下位道県は寒冷地域であり、実際の駆除データからみても気温による影響を受けている可能性が高いことが見えてきます。
なお東京都は非木造の集合住宅に入居する世帯割合が他道府県よりも沖縄に次いで高い地域であり、このことが数値に影響していると考えられます。

このデータは過去コラム【2017年】シロアリ被害調査。シロアリが最も出やすいのは「和歌山県」でもご紹介しています。詳しいデータや分析についてはこちらもご確認ください。

6.シロアリの巣はどのような形?

木材をかじる、というイメージが強いシロアリですが、その巣はどのようになっているのでしょうか。

シロアリは種によって巣を作る場所が異なるため、その特徴も異なってきます。

6-1.ヤマトシロアリの巣

ヤマトシロアリは湿気があるところがそのまま巣であり、かつそのまま餌場となります。そして餌を求め群ごと移動していきます。そのため湿気が溜まりやすい床下や床面、天井裏や浴室などでは巣がないかしっかり確認することが大切になってきます。

6-2.イエシロアリの巣

イエシロアリは水分を運ぶため、巣の位置に湿度はあまり関係ありません。地中に本巣と呼ばれる大きな巣を作った後、王や女王、二次生殖虫の移動した場所を中心に分巣を作って定住します。作られる場所が決まっていないぶん、巣を探すためには移動した痕跡を探す必要があるのです。

6-3.巣探しのポイントとなる「蟻道」

土壌性シロアリは光や乾燥を嫌うため、移動の際は排出物や土によって通路を作ります。これが「蟻道」(ぎどう)と呼ばれるもので、巣やシロアリ被害を発見する手掛かりになります。

この蟻道は普通のアリも作ることがありますが、人間が触ると簡単に崩れてしまうもろいものです。しかしシロアリの作る蟻道は触るだけでは崩れないようできているため、区別はしやすいといえます。

また木材の中を蟻道とする場合もありますが、そのとき割れ目などがあると蟻道と同じように排出物や土でその隙間をふさぎます。これを蟻土といい、蟻道と同じくシロアリを探すポイントです。

6-4.巣を持たないアメリカカンザイシロアリ・ダイコクシロアリ

乾燥に強いアメリカカンザイシロアリやダイコクシロアリといった種類は蟻道を作らず、木材の中に穴を掘り生活します。つまり「巣」といった大きな集団生活の場を持たないため、羽アリが発生するような段階まで進行しなければ発見は難しいといえるでしょう。

アリの巣

7.シロアリの天敵は多い?

シロアリ被害は深刻化なものになりやすく、シロアリに天敵がいないからこんなに増えるのではと思うかもしれません。しかしシロアリは弱いからこそ集団生活をし、女王以外に二次生殖虫が登場するなど多数の個体を生み出す工夫をしているのです。

7-1最大の天敵はアリ

普通のアリとシロアリは昆虫であること以外種としてはまったく異なることはこれまでも説明してきましたが、シロアリにとって最大の敵はアリだといっても意外に感じるかもしれません。

しかしアリは近縁種のスズメバチと同じく、肉食の昆虫です。そのためシロアリは捕食対象ですし、そもそも大きな種のアリは小さな種のアリも捕食対象なのです。

アリはシロアリと同じようなサイズで、シロアリの巣に侵入することは容易です。またシロアリは屋内活動が前提のため成虫以外は複眼が未発達なのに対し、アリは屋外活動が前提で複眼があり、その点でも不利といえます。

シロアリの巣の中には兵アリがいてあごや分泌物で抵抗するものの、戦うというよりは警告を発する、犠牲になって他のシロアリを逃がす役割の方が大きいとされています。

7-2.タンパク質が豊富なシロアリは狙われやすい

シロアリは腸内で窒素を取り込んで固定するためタンパク質が豊富で、かつ外皮が柔らかく食料として適しているといえます。そのためさまざまな昆虫やクモ、スズメ・ツバメなど鳥類、さらにはモグラなどさまざまな生物の餌となります。

7-3.羽アリにも天敵は多い

外皮が固くなり、複眼も発達した成虫の羽アリであっても天敵は多く、捕食対象とされます。とくに羽アリは風に流されやすく、飛び立った後無事につがいを作って巣を作り始めることのできる羽アリはわずかです。残りはクモの巣にひっかかる、捕食されるなど、巣立った後も天敵に狙われるのです。

8.シロアリは自分で木材を消化できない?

建物に害を与えるシロアリは木材をかじり、そのなかのセルロースを摂取しています。しかし意外なことに、シロアリ自身はこのセルロースを、分解して栄養にすることができません。

8-1.セルロースとは

そもそもセルロースは植物の骨格ともいえる細胞壁の主部分であり、炭水化物としては地球上でもっとも多く存在するといわれます。デンプンなどと同じくグルコースという分子から成り立っているのですが、分子結合は鎖状に連なり、かつ切り離しにくい共有結合により簡単には切り離せません。かつ鎖同士はグルコースに含まれる水素同士が電気的に結びつく水素結合で、さらに強い成分となっているのです。

このセルロースを分解する酵素として「セルラーゼ」という物質があるのですが、セルロース自体の構造が固いため単独で作用させることは困難です。そのため細胞壁を膨張させるエクスパンシン・スオレニンなどを並行して生産することで、セルロースからグリコ糖へと変化させる微生物が存在します。

8-2.シロアリは分解菌と共生している

シロアリ自身もセルラーゼを生成する遺伝子情報は持っており、微量ながら体内で生成しあごの部分で分泌しています。しかしシロアリの生成する量・場所では木材に含まれるセルロースを消化するには不十分なのです。加えて、セルロースとともに細胞壁に含まれるリグニンを分解できる生物はキノコ類とバクテリアの一部に限られます。

さて、シロアリの消化器官は前腸・中腸・後腸の3つに分かれており、この後腸にはセルロースを分解する菌が住んでいます。つまり取り込まれたセルロースはシロアリの体内をそのまま通過し、後腸で分解菌により変化されシロアリの養分として取り込まれるのです。

また分解菌には窒素を固定して物質に変える原生動物も同時に共生しています。生物の体を構成するタンパク質は糖分や脂質と異なり窒素が必要なので、この原生動物も大切な役割を果たしているといえます。

なお進化過程ではもっとも新しく登場したシロアリ科は中腸でもセルラーゼを生成して分解しやすくしています。また一度取り込んだセルロースが含まれた糞に胞子を植え、セルロースを分解して生えたキノコを餌とする種類のシロアリも存在するのです。

8-3.セルロースを分解できないのは草食動物も同じ

シロアリの例は特別なことではなく、ほとんどの生物はセルロースやリグニンを分解できません。植物を食べている草食動物でさえ、セルロースの分解はできないのです。

草食動物はセルロースを摂取しているのではなく、細胞に含まれるたんぱく質や脂質を取り込んでいます。そのため多くの草食動物は生きた状態の植物を食べます。牛や馬はシロアリと同じように体内でセルロース分解菌と共生しているため、セルロースも養分として取り込むことができます。

草食動物

9.シロアリの被害について

さて、シロアリは建物に取ってさまざまな被害をもたらします。複数の観点から、その被害について考えてみましょう。

9-1.衛生面が悪化する

シロアリはセルロースを間接的に養分としますが、それ以外の成分は糞として排出します。巣を中心に排出された糞にはカビなど微生物が繁殖しやすく、放置すればダニ発生やさらなる害虫・害獣を呼ぶなど、さらなる被害を呼びこみかねません。

また糞だけでなく、シロアリ自体を餌とする害虫・害獣を呼び込む可能性もあります。シロアリに食べつくされた木材はもろく、少しの力で崩れてしまうことも否定できません。隙間を埋めていた木材が崩れてしまえば、ねずみなども侵入しやすくなってしまいます。

さらに、日本のシロアリ被害の多くを占めるヤマトシロアリが木材を食べた後は湿った状態になっており、この点でも雑菌が発生する懸念が高くなるといえるでしょう。

9-2建物の構造を弱める

シロアリが住宅の構造を支える木材を食べてしまうと、そのぶん構造的な強度が弱くなり、他の部分の負担も大きくなってきます。それが重なれば地震や強風・積雪などで住宅に大きな力がかかった場合に柱がゆがんだり、最悪の場合倒壊するおそれも出てきます。

構造的なゆがみが生まれれば住宅のあらゆる部分に支障をきたします。建材のズレで雨漏りが生じれば、シロアリの被害はさらに拡大していきます。

9-3.資産価値を下げる

シロアリが発生した建物は構造的に弱っていることが多いため、建物の資産価値はどうしても下がらざるを得ません。そのためシロアリが発生しないよう、しっかりと予防をおこなっていくことが大切です。

たとえシロアリを駆除をしたとしても、「瑕疵住宅(≒わけあり物件)」として扱われるため、一度下がった資産価値が戻ることは別の要因がない限り難しいといえます。とくに将来建物を売却する予定のあるときはシロアリ予防を徹底しましょう。

9-4.シロアリ駆除に、基本的に火災保険は適用されない

シロアリによる経済的な被害はそれだけではありません。火災だけでなく、建物に起こるさまざまな損害を補償してくれるのが火災保険の役割です。しかし残念ながら、シロアリ被害自体は、火災保険の補償対象ではありません。

構造的に弱くなり建物に損害が出ていることは確かなのですが、シロアリなど害虫による被害は劣化により発生したものとして取り扱われることが多く、それ自体が理由で保険を適用することは困難です。

ただしシロアリ発生の原因に風や雪の影響が絡んでいた場合、駆除費用が補償の対象になる可能性はあります。台風で瓦が飛んだり、雨どいが雪の重さで壊れたりするなどして雨漏りが生じ、それがシロアリ繁殖の要因として確かであれば「風災・雪災によって生じた被害」です。

シロアリ発生の原因に雨漏りが絡んでいるなど、可能性がある場合は駆除の際に原因特定をしてもらったほうがよいかもしれません。

シロアリの被害

10.シロアリが発生したときは

たとえ気を付けていたとしても、建物にシロアリが発生する可能性は十分にあります。その際の対策を事前に知っておくことで、いざという際の対処にも大いに役立つでしょう。

10-1.こんな兆候があればシロアリ発生を疑いましょう

シロアリ被害が本格的に発生する前にはある程度兆候となる現象が確認できます。建物に致命的な被害を与える前に、一度シロアリ発生がないか確認しておきましょう。

シロアリ被害が大きくなる前の特徴として、次のような点が挙げられます。

・春から梅雨の時期、半透明で楕円をした羽が多く落ちている
・何かの糞が建物周辺や床下に落ちている
・床や柱をよく見ると、小さな穴が開いているように見える
・壁際に木の粉のようなものが落ちている

また次のような場合、シロアリ発生の可能性が高まります。合わせて確認しておきましょう。

・羽アリが多く飛んでいた
・近所の建物でシロアリ被害があった
・築年数が5年を経過、もしくは前回のシロアリ駆除・予防施工から5年経過している

10-2.業者が来る前に何ができる?

シロアリ駆除は基本的に業者に依頼することになりますが、一度調査を挟むなど実際の駆除までには時間がかかります。駆除までの間にどのような対策をおこなえばよいのでしょうか。

・予防施工の保証期間を確認する

多くの業者がシロアリ駆除や予防施工をおこなう際、5年間の保証を付けています。この期間内であれば再施工扱いとして駆除費用の負担がなくなるケースが多いため、まずは前回の施工時期を確認し、期間内であれば前の業者に依頼することを検討しておきましょう。

・羽アリは掃除機で吸う

羽アリが発生した場合、そのままにしておくのは衛生的にも、精神的にも問題があります。そのため掃除機などで吸うことで一時的な処理をしてみましょう。ただ、殺虫剤を使用するとシロアリの巣に影響を与え、さらに羽アリを増やすおそれが出てきます。どうしても、という場合を除き殺虫剤の使用は控えておきましょう。

・ベイト剤で一時的な対策も

ベイト剤はシロアリにとっては遅効性の有毒成分が含まれており、木材よりもシロアリが好んで食べるよう工夫されています。ベイト剤に効果があればシロアリの巣が崩壊するのも早まるため、業者を呼ぶのに時間がかかる場合はまずベイト剤を設置して対策するのも1つの手段になるでしょう。

ただしベイト剤は時間を掛けて巣全体に効力を持たせるため、1ヶ月から3ヶ月ほどの期間を見積もっておきましょう。またシロアリの巣が壊滅しても不衛生な状況であることに変わりはありませんので、ベイト剤だけでなく消毒も行うようにしてください。

シロアリが発生したときは

11.DIYでシロアリ予防は何ができる?

シロアリ駆除業者に依頼してシロアリの予防施工が難しい場合、DIYでも予防をおこなうことが可能です。以下では、その方法についてご紹介します。

11-1.床下に潜る準備

シロアリ予防は床下での作業が中心です。床下はほこりが溜まりやすく、薬剤などを使う際には誤って吸い込まないよう万全の体勢を整える必要が出てきます。

床下に潜る際は最低限、次のような服装を整えましょう。

・長袖、長ズボン(汚れてもいいもの)
・運動靴
・防毒マスク
・防護メガネ
・保護帽
・手袋

11-2.木材や移動ルートは薬剤処理

シロアリの被害に遭いやすい床下の木材部分に木材用の駆除乳剤を塗ります。とくに水回りや玄関周辺はシロアリが侵入してくることが多いため、しっかりと塗り残しがないか確認しながら作業することが大切です。

もし蟻道が見つかった際には、シロアリが通っていると推定されるルートに薬剤を注入しましょう。状況によっては速やかに業者へバトンタッチすることも大切です。

11-3.床下の土壌も処理する

ヤマトシロアリ、イエシロアリなどの大半は土壌を伝わってやってきます。そのため土や基礎、配管などには土壌用のシロアリ駆除薬剤を導入しておきましょう。

水回りや玄関などをはじめ、基礎に割れがあった場合はその部分を重点的に処理するとともに、土を掘り薬剤が少し溜まるようにしておくことも有効な手段でしょう。

11-4.ベイト剤は土に埋めるか被害場所に固定する

先にもふれたベイト剤ですが、使い方は主として2通りあります。予防として設置する場合は土に埋める場合が多く、被害がすでに起きている場合はその箇所か巣に隣接する形で固定します。

またベイト剤にはシロアリを集める効果があるため、予防の場合床下ではなく周辺部分に設置することが多いです。水回りや切り株など、シロアリの発生しやすい部分を中心に設置してください。

DIYでシロアリ予防

12.シロアリは益虫でもある?

シロアリというと害虫のイメージが強いですが、ほとんどのシロアリは森林に生息しており、かつ建物など人間の生活に被害をもたらしません。

大部分のシロアリは枯れた木や落ち葉などを分解し、土壌に養分を戻す役割を持っています。通常の動物が餌としない丈夫な構造のセルロースをあえて分解するシロアリは森にとって必要不可欠な存在です。一説には、森林の倒木や枯れ葉の分解する作用の2割をシロアリが担っているともいわれているのです。

またシロアリが作る蟻道も、森林にとっては大きな役割を果たします。この網の目のような空間があることで地中深くまで空気が入り、微生物による分解を促すのです。

このようにシロアリには益虫としての側面もあります。以下では、そうしたシロアリの益虫としての一面をご紹介していきます。

12-1.バイオ燃料生産の手助けにも

植物は二酸化炭素を取り込んで養分を作り出し、その体を構成します。そのため植物から作った燃料を燃やしても取り込んだ二酸化炭素を再び排出するということになり、理論上では地球上の二酸化炭素総量は変わりません。このことから石油や石炭、天然ガスなど過去に貯蔵された二酸化炭素が含まれた燃料を使うよりもエコであるという認識が生まれ、世界各国で植物から生まれるバイオ燃料の開発が進められています。

しかしここで問題になったのがセルロースの処理です。従来はトウモロコシに含まれるデンプンやサトウキビの糖分など、比較的使いやすいグルコースを利用してバイオエタノールへと変換していました。しかし地球上でグルコースが最も多いのはセルロースを構成する部分のため、この部分の活用が求められていました。しかし細胞質を構成するセルロースはその前の分離から困難で、前処理にかかるコストは実用的な段階とはいえないのが現状です。

そこでシロアリの持つ微生物がセルロースを効率的に処理していることが注目されました。この微生物の遺伝子情報を調べることで効率的なセルロース処理方法が開発され、バイオ燃料に関してもコストダウンが期待されています。

シロアリバイオ燃料生産

13.シロアリ検査は「5年」に1度おこないましょう

住宅を建てて5年が過ぎたら、そろそろシロアリ検査の時期です。シロアリの初期段階は目立った被害が出てこないことも多いので、家の健康診断だと思って定期的に検査や予防施工をおこないましょう。

これは予防施工された薬剤の効果がおよそ5年とされていることにも由来します。これに伴いシロアリ発生時に業者が無料再施工をおこなう保証期間も5年に設定されていることが多いため、この期間が切れる前に確認することが大切なのです。

13-1.予防意識は築年数経過とともに薄れがち

ここでも実際のデータを見てみましょう。

表2・予防/駆除の割合と築年数別シロアリ相談事例

表2・予防/駆除の割合と築年数別シロアリ相談事例

このデータを見てもわかるように、5年以下では6割以上の事例が「予防」の依頼なのに対し、築16年を過ぎると2割を切ってしまいます。確かに築年数の経過によってシロアリが発生しやすくなることは挙げられるものの、シロアリの予防に対する認識が築件数経過によって薄れていくことを示唆しているようにも思えます。

シロアリ予防は継続することが大切です。それを怠ってシロアリ発生につながってしまえばそれまで資産価値の維持に使ってきた費用を無駄にすることにもなります。

13-2.検査は無料の業者が多い

シロアリ検査は駆除や予防施工の方針を決めるための重要な工程であり、見積もりとともに無料でおこなう業者がほとんどです。離島など場所によっては費用が発生することもありますが、一度確認のため調査だけでも依頼するとよいかもしれません。

また「無料」ということは、複数の業者にも依頼しやすいということでもあります。調査結果と見積りをもとに信頼性を判断し、最適な業者を選ぶということもシロアリの駆除や予防には大切になってくるでしょう。

14.まとめ

基本的なものから意外なものまで、さまざまなシロアリの情報を見てきました。シロアリの一部は建物に被害を与えるので駆除や予防は避けがたいものですが、ほとんどのシロアリは自然循環に大切な役割を持っています。その点でシロアリは害虫ですが、益虫でもあるといえるでしょう。

またシロアリとアリはまったく別の種類だということも確認しました。どちらも集団生活をおこなう社会性を持った昆虫ではありますが、細かく確認してみるとその違いは大きいです。どちらも巣立ち時には大量の羽アリを発生しますが、ポイントを押さえておけばその区別はできるでしょう。もちろん普通のアリも屋内に侵入・巣を作ってしまえば害虫へと変わります。その際は自力で駆除したり、業者に依頼する必要も出てきます。

シロアリについて詳しく知って予防に取り組み、建物の資産価値を保っていきましょう。